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2021.06.10  おかえりモネの森

山の葉っぱが海の栄養に。森里川海のつながり

「この山の葉っぱが海の栄養になんのっさ。山と海はつながっている。まるっきり関係ねえように見えるもんが何かの役に立ってることは、世の中にはたくさんあるんだ」。『おかえりモネ』第20話の回想シーンで祖父の龍己が話していました。幼い百音と未知の姉妹が祖父と一緒にブナの苗木を山林に植えている場面です。この山と海、森と海とのつながりには一体どんな意味があるのでしょうか。

豊かな海は豊かな森から。「森は海の恋人」

穏やかな舞根湾に浮かぶ、カキやホタテの養殖いかだ群

天然の良湾である気仙沼は古くから漁業基地として栄え、また波静かな入り江ではカキやホタテ、ワカメなどの養殖も盛んです。この海が豊かな理由の一つは、「大川」など湾に注ぎ込んでいる川が上流の広葉樹の森から養分を運んできて、その森からの栄養が海の生き物を育むことにあります。

ところが、昭和40〜50年代に気仙沼湾の環境が悪化し、赤潮が発生して、カキを廃棄処分せざるを得ない事態に。そこでカキの養殖を行う漁業家の一人であった畠山重篤さんが中心となり、「大川上流の室根山に自然界の母である落葉広葉樹の森を創ろう!」と、植樹活動をスタートしました。海で暮らす人が海のことだけを考えていてはきれいな海は帰ってこない。上流の森、下流の街、そして海、流域で暮らす人々が価値観を共有しなければ豊かな自然環境を守れないとの思いが、そこにはありました。

以来、畠山さん達は取組を推し進め、平成元年から毎年、大川の源流域である室根山で「植樹祭」を開催。これまでにブナやミズナラ、クヌギやクマノミズキなど約3万本の落葉広葉樹の苗木が植えられました。「森は海の恋人」と名付けられたこの活動は、小中学校の教科書でも取り上げられ、今では全国に拡がる運動となっています。植林した苗木も30年の時を経て豊かな森へと成長しています。

東日本大震災でカキの養殖は壊滅的な被害に見舞われましたが、森が元気だったためでしょうか、海には次々と生物たちが蘇ったといいます。

流域のつながりに想いを馳せる暮らし

細長い日本列島には、大小さまざま30,000以上もの河川が流れています。網の目のように張り巡らされたこれらの川の流れによって、山、森、里、海が互いにつながり、影響し合って、暮らしに恵みをもたらしています。

つながりによる影響は、森の豊かさを川が運び里をうるおし海を育むといった良い例がある一方で、里や街から流出したプラスチックや排水が海洋汚染を引き起こすような好ましくない影響もあります。また、行き過ぎた開発や利用、不適切な管理などによって、つながりが分断されることもあります。

私たち一人ひとりが日々の暮らしの中で、森里川海というつながりに意識を向け、水の循環に想いを馳せることによって、ライフスタイルが変わって行くかもしれません。街に暮らす人なら、源流の森へ遊びに行くもよし、植樹や間伐など森づくり活動に参加するもよし。また、海を思えば自然と、脱プラスチックや環境負荷の少ない日用品を使う暮らし方へ向かうのではないでしょうか。 流域というつながりをたどって、遠く離れた森や海にも想いを馳せ、時には会いに行ってみませんか。

取材協力:畠山信(NPO法人森は海の恋人)、竹中 雅治(登米町森林組合)





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