子どものころに駆け入ったように、落ち葉の山の上をまた歩いてみたいと思ったことはありませんか? でも、誰かが一生懸命掃除をして集めたものかもしれない近所の落ち葉を歩いて汚してしまうわけにはいかないし、かといってわざわざ遠くまで出かけるのもおっくうですよね。
そこで、今日ご紹介するのは、宮城県仙台市にある金剛沢治山(こんごうさわちさん)の森です。新幹線も通る仙台駅から地下鉄で12分の場所にある八木山動物公園駅から歩いて15分で入林できるのが魅力のひとつ。仙台では紅葉狩りには少し早い10月末の土曜日、ふわふわ落ち葉を目当てに治山の森に行ってきました。
標高136.4mにある地下鉄駅から森に向かいます
八木山動物公園駅は名前から分かる通り、動物公園の最寄り駅。動物公園の入場口横を通り過ぎ、森を目指します。
動物公園を通り過ぎて4分。さっそく緑豊かな木々が見えてきました。いきなり「熊出没注意」の看板。熊に限らず自然の中で楽しむためには注意が必要です。目の前の木が倒れてきたらどうするか、急に雨が降ってきたらどうするか。さまざまなイメージをふくらませ、万一の事態に備えましょう。
地下鉄の駅から10分も歩いていませんが、聞こえてくるのは木々が揺れる音と鳥のさえずり。森の入口までは舗装された道を歩きますが車が通ることはほとんどありません。
動物公園から歩くこと10分、金剛沢市有林北口入口に着きました。目指すのは治山の森なので、まだ森に入りませんが、金剛沢市有林、金剛沢国有林とも散策道が網の目のように広がっていて、いろいろな歩き方ができます。
探検している、そんな気持ちになれる散策路です
金剛沢市有林北口からさらに5分、本日の目的地「治山の森の入口」に着きました。入口近くに目立つ案内はなく、うっかり通り過ぎそうな森の中では、目的の入口を見つけただけで冒険をしている気持ちになります。案内板には、八木山動物公園駅から815mと書いてありました。
散策路は人がひとり通れるくらいの幅で舗装もされておらず、雨が降ればぬかるみ、足を取られるかもしれません。でも、それも自然の一部と思えば楽しくなります。
植物に「触れ合い」ながら先に進むと大木が倒れていました。くぐるか乗り越えるか、選ぶのも楽しみのひとつ。乗り越えるときは木が折れないか、すべらないか、十分に確認しましょう。倒木もアトラクションのひとつです。
葉っぱがこすれる音に混じり、熊よけ用と思われる鈴の音が聞こえてきました。せまい散策路なので誰かが歩いてきたらどこでどうやってすれ違おうかと心配していましたが、音は次第に遠ざかっていきました。姿は見えなくても、同じ森を楽しんでいる人がいると思うと嬉しくなります。
森林を守る数々の治山施設に興味をそそられます
さらに進むと、ロープで囲まれた人工物がありました。半径1.5mはありそうな大きな円状の物体は水を集めるための井戸。地すべりの原因となる地下水を排除するために設置したもののようです。
金剛沢治山の森は、名前の通り、治山事業と関係があります。治山事業とは山崩れや地すべりなどが起きないように、仮に起きても災害が軽減するように工事を行うことです。金剛沢付近は地下水が増えるとたびたび地すべりを起こしていました。1950年頃には死者を出した地すべりもあったようです。現在は、治山ダムや排水トンネルを整備し、地すべりはほとんど止まっています。
集水井から少し先の分かれ道を左に曲がり、山を下りてしばらく進むと、柵が見えてきました。目の細かい網が張られた柵の後方には大きめの石が敷き詰められ、土砂が崩れるのを押さえています。
街中では片付けられてしまう落ち葉も、ここでは森の一部。落ち葉に目をやると、色とりどり、形もさまざまです。個性豊かな葉っぱたちの中からお気に入りの一枚を探してみましょう。
林道をさらに下ると、奥まったところに鉄柵で出入口をふさがれたトンネルを見つけました。中に何があるのか気になります。
恐る恐る近づいてみると、長い通路が延びていました。奥は真っ暗です。しばらく覗いていましたが、何も出てくる気配はありません。ここに来るまで2回も見かけた「熊出没注意」看板から熊を閉じ込めているのかも......と妄想したのですが、どうやらハズレだったようです。
治山の森のリーフレットによると、このトンネルも地すべりの原因になる地下水を抜くための施設でした。先ほどの土留めも治山事業のひとつ。崩れやすくなった斜面を押さえたり、沢にある土砂が一気に流れ出さないようにダムを設置したり、必要な処置を組み合わせて森林を保つよう工夫しているのが分かります。
取材をしたこの日は10月の小春日和。散歩にぴったりだと思うのですが、すれ違う人はいません。周囲の目を気にすることなく自分たちのペースで、のんびりゆっくり歩くことができるので気持ちが落ち着きます。
さらに林道を下ると砂防ダムが現れました。晴れているからでしょうか、水の流れは弱く、ダムに開いた穴からチョロチョロと音がする程度です。ダムの上流部は湿地になっていて、踏みこむと下から水がにじんできました。
ダムを過ぎたら、まもなくゴール。今回は土曜日の午前中の訪問でしたが、すれ違ったひとは3人のみ。混雑することなくのんびりできます。近年は街中の公園で遊ぶ子どもたちの声も騒音と感じる人もいるようです。ここならば、人目を気にせずに思い切り遊べます。想像力をめぐらせて自由に探検したり、新しい遊びを見つけてみては。
治山事業を伝える森があったんだ
今日下ってきた林道は、亜炭を運ぶトロッコが敷設された道。亜炭採掘のために山をいじったことが地すべりを誘因したともいわれています。いまは亜炭の面影もトロッコの姿もありませんが、この土地に残された思い出のひとつには違いありません。亜炭で賑わった時期がよい思い出だったのか、悪い思い出だったのか、気になるところです。
約70年前に起きていた地すべり。森林が回復し、山の景色から災害があったと想像するのは今は難しくなっていますが、治山事業として残る施設を手がかりに、過去の災害や地域の特徴をイメージすることはできるかもしれません。
ここは山、公園や遊園地のように施設管理者によって明確に遊ぶ場所が区切られてはいません。好奇心と想像力で自由に遊ぶことができます。しかし、相手は自然です。どんな危険がひそんでいるか分かりません。自分の知識や経験、体力や技術と相談しながら、安全第一を心がけてください。
集水井や排水トンネル、砂防ダムや配水管など街中では見つけることができない施設はギミックそのもの。自分なりの楽しみ方を見つけることができる、隠れ家のような森に一度足を運んでみませんか。
阿部哲也
INFORMATION
金剛沢治山の森
アクセス方法:最寄り駅:仙台市地下鉄東西線「八木山動物公園駅」(仙台駅から12分)
- 夜間に閉鎖されることはありませんが、外灯はありませんので夜間の入林はおすすめできません。
- 治山の森への出入口はいくつかあります。林野庁サイトにパンフレットがありますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
東北森林管理局:仙台森林管理署>管内の見どころ
東北森林管理局:八木山治山ガーデンパンフレット(PDF)
Forest Styleナビゲーター・プロフィール
阿部 哲也(あべ てつや)
ただの森好き。週末は街中の喧騒を離れて家族とのんびり散歩しています。子どものころにどこまでも続いていると思った田んぼと畑と小川と広い空、そして学校の裏山が心に残っているのかも。